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むかしからおれとこの人とは仲よしだつた――それは押しかくすことのできない悦ばしさだつた。
小谷は相手にされなかつたやうに感じてちよつと顔をしかめた。が、しばらくすると又声をかけた。
それ以来、逗留客は奥の客便所へゆくことを嫌って、宿の者の便所へ通うことにしたが、根津は血気盛りといい、かつは武士という身分の手前、自分だけは相変らず奥の便所へ通っていると、それから二日目の晩にまたもやその戸が開かなくなった。
だが、房一はそれを感ずれば感ずるほど、何かしら云ひがたい不安を覚えた。それは、病症の不明な患者に対するときに間々あるやうな技術的な不安ともちがつていた。一種肉体的な恐怖、とでも云ふやうなものだつた。
「さうですか」
「いや」
――「おれみたいな息子ができるとは、全くどうかと思ふよ」
云はずと知れたことだ、といふやうに徳次はそのきよろりとした眼を上げて小莫迦こばかにした風に小谷を眺めた。大きい麦藁帽子を被つているので、小谷のやさしい顔立ちはひどく女らしく見えた。
八月も末だつた。十日あまり思ひがけない涼しさがつゞいたので、このまゝ九月に入るのかと思はれたが、暑さは又ぶり返して、がまんがならないほどだつた。
と、小谷はひとり言にしては大きい声で云つた。が、代りがないので又水の中へ放つた。
房一はいかにもそれがやり切れない、と云つた風に吐き出すやうに云つた。つゞけて、
房一が云ふと、喜作は突然びつくりするほど大きな口を開けて笑つた。